近年、生前贈与、生前相続という言葉が、一般的にもよく使われるようになりました。
これは税務上の理由が大きいことからに他なりません。「年間110万円までは非課税」といった事実がクローズアップされています。それだけ聞くと、相続税を回避できる、あえて言うなら“お得”な手段のように思われますが、実は、生前贈与というのは、そこまで簡単なものではありません。一定の法的ハードルがあります。まず、何が「贈与」か? そこから話が始まります。
平成27年の相続税増税など、増税のたび注目されるのが、生前贈与です。
生前相続とも言われますが、法律的に言えば、やはり「贈与」です。というのも、相続や遺贈と「贈与」は、まったく別の取り扱いです。贈与とは、あくまで「契約」の一種であり、亡くなった人の財産の相続などとは違って、そもそも、“当事者の意思”により行われます。
もちろん、相続、遺贈についても、遺言で被相続人の意思を反映させることは可能です。しかしこれについては、被相続人の死後に、自動的に発生するものです。
対して、贈与は当事者間の合意に基づいた「契約」です。法律的な効果が発生するか否か、そこが当事者の意思に明確にかかっています。そこが、相続や遺贈と、贈与との大きな違いです。
そして、贈与は、原則として無償で行われるものです。しかし、贈与する者に対して、一定の約束を求めることも可能です。「お墓を守ることが条件」という負担を課すことができるのです。
生前贈与は口頭でも成立します。口約束でも良いのです。しかし、その他の一般的な売買契約と違い、書面でない場合には、贈ろうとする方、受け取ろうとする方、どちらからでも撤回できることに注意しなければなりません(ただし、すでに贈与を実行した部分は、撤回できません)。
口約束で契約できる生前贈与ですが、その分(というわけでもありませんが)、簡単に撤回できてしまうところが、場合によっては問題を生みかねません。「実効性」のある生前贈与を行うためには、現金は引渡しで、そして不動産等は引渡しと、登記をしておくとほぼ間違いないでしょう。
上でも触れた通り、不動産等を生前贈与する場合には、引渡しだけでなく、必ず登記することを忘れないでください。登記しなければ、第三者からの関与を受ける場合があります。所有権の問題です。たとえば、お世話になったAさんに不動産を贈与しようという場合、本人とAさんとの間で話がまとまり、実際にAさんがその家の鍵を持ち、居住している状態でも、当事者以外には「この家はAさんのものだ」という主張が、法的には通用しないということになります。本人の家族が「なぜAさんのものなのか?」と言い出せば、話が紛糾する可能性が高いでしょう。
第三者からの関与を受けないためには、贈与する人の名義で登記しておくこと。これに尽きます。特に、被相続人の死後、相続が開始されると、「登記されていないのに法定相続人以外の人が住んでいる家」はあまりに大きな問題の種になるので、よくよく注意しなければなりません。
遺留分とは、簡単に言えば、相続において、一定の遺族に保障された最低限の取り分のようなものです。
一定の遺族とは、配偶者、子や孫の直系卑属、父母や祖父母の直系尊属のことです。
民法は、遺言によって被相続人が自由に財産を処分することを認めています。しかし、一方で遺された人にも配慮した決まりがあり、相続人は、すでに誰かの手に渡った(あるいは渡ろうとしている)一定の財産を取り戻すこともできます。詳しく言えば、相続財産から諸々の経費を差し引いた価格から、配偶者と子は二分の一、そして父母は三分の一が遺留分として保障されています。
生前贈与にも、遺留分は関係します。贈与者が亡くなる一年以内に行われた生前贈与は、誰に対して贈与されたものでも、遺留分の対象です。法定相続人への贈与であれ、それは同じです。
少し複雑な話になりますが、推定相続人に生前贈与した場合は、「特別受益」という問題が生じることがあります。特別受益とは、被相続人の生前、特別な贈与を受けた者がいたとして、その人が受け取った利益のことを指します。単純な現金以外にも、結婚資金なども、その一部です。
特別受益がある場合には、フェアな相続を行うために、特別受益と相続開始時のすべての財産を合計した額を導き出し、それを相続財産として、遺産分割が行われていくことになります。
公平な分配のための、いわゆる「特別受益の持ち戻し」です。この計算の結果、特定の相続人が本来の相続分を超える財産を贈与されていた場合は、そのすべてがなくなることもあります。
しかし、被相続人がそれを避けたいならば、「持ち戻し」についても意思表示することは可能であり、それについては法も問いません。「生前贈与するが、相続開始後、持ち戻しはしてくれるな」と意思表示しておけば、持ち戻し計算は行われず、贈与を受けた者も、特に何事もありません。
ただ、「持ち戻し免除」に関する意思表示については、遺言などでも言及されていないことがほとんどです。免除に関して言及した書面がない場合は、その旨の「黙示」があったかが問題となります。すなわち、「被相続人は、言葉にはしなかったが、内心では持ち戻し免除の意思を持っていたはずだ」と認められるかどうか。もし認められるならば、持ち戻し免除、となるわけです。
黙示の持ち戻し免除は、しかし、単純には判断できません。贈与の内容、贈与に至った経緯、被相続人との関係、資産状況などが考慮され、最終的に免除か否か判断されることになります。
このように、生前贈与は、世間で考えられているほど、実際には単純ではありません。状況に応じてどうすべきか、綿密な計画と、判断が必要とされます。また、贈与しようという方の立場からは、その贈与を親族がどう思うか、といった配慮も欠かせず、なかなか悩ましい問題です。
鎌倉総合法律事務所までお問合せいただければ、ご依頼者様が希望する形で贈与が成立するよう、力になります。ご親族への通知、説得、交渉なども、もちろん、承ることができるご相談です。
生前贈与は、一概に「こうすれば良い」とは言えません。個々の状況によって取るべき判断は様々なので、まずはご相談いただき、そこから一緒に最適な方法を考えていければと思います。
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