遺産分割協議(相続人同士での話し合い)がまとまらず、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てたものの、互いに主張を譲らず合意できないケースは少なくありません。
調停でも決着がつかない場合、相続手続きは永久に終わらないのではないかと不安に感じる方も多いでしょう。
しかし、そんなことはありません。遺産分割調停で話し合いがまとまらず、調停不成立になると、手続きは自動的に「遺産分割審判」の手続きに移行します。最終的には裁判官の判断によって強制的な解決が図られますので、ご安心ください。
最初から調停でなく審判を申し立てることも可能ですが、ほとんどの場合は家庭裁判所の判断で調停に付されるのが実情ですので、まずは調停を申し立てるのが一般的です。
調停は、家庭裁判所の調停委員会を介した話し合いの手続きです。当事者全員が同意しなければ調停は成立しません。調停が不成立に終わる主な原因として、以下のようなことが挙げられます。
誰が、どれだけの遺産を受け取るかについて主張が対立し、平行線のまま調停不成立となるケースは非常に多いです。
特定の相続人が「被相続人の介護を長年行ってきた」などの理由で寄与分を主張するケースもあれば、「他の相続人が多額の生前贈与を受けていた」などと特別受益の持ち戻しを主張するケースもあります。
遺産分割について相続人全員の合意を得るためには、前提として「遺産の範囲」と、各遺産の「評価額」を確定させる必要があります。しかし、これらの点をめぐって意見が対立することも少なくありません。
「遺産の範囲」については、特定の財産について生前贈与契約の成否を争われ、遺産に該当するかどうかが問題となることが多いです。
遺産の中に不動産がある場合は、その評価額の算出方法について、公示価格、路線価、固定資産税評価額、実勢価格のどれを採用するかなどで争いが生じがちです。
非上場株式は、そもそも時価の算出方法が複雑で難しいため、争われることが多いです。
有効な遺言書があれば、その内容が優先されるため、相続トラブルの防止に役立ちます。
しかし、「遺言書が改ざんされている」「誰かが無理やりに書かせたものだ」「遺言書が作成された当時、既に被相続人は認知症を発症していた」などの理由で、遺言書の無効を主張されることも多いです。
遺言書の有効を主張する相続人と、無効を主張する相続人が歩み寄れない場合、調停を成立させることは困難です。
遺産分割前に特定の相続人が遺産を管理している場合、使途不明金が多く、他の相続人から遺産の着服を疑われるケースも多く見受けられます。
遺産を葬儀費用や法要費、医療機関や介護施設への未払い金の弁済などに適切に支出していたとしても、使い途の記録や領収証などを保管していなければ、遺産の着服を疑われることになりかねません。
客観的な証拠が保管されていない場合は、相続人間の意見が対立したまま、調停不成立となってしまいます。
以上のような問題がなくても、相続人間の人間関係が良好でなければ、互いに相手の主張に対して、一切譲歩したくないという感情的対立が前面に出てくることもあります。
被相続人の生前には仲が良かった親族であっても、相続が開始してお金の問題に直面すると感情的に対立してしまうケースも少なくありません。
このような感情的対立がエスカレートしてしまうと、客観的に見て適切な遺産分割案を調停委員会から提案されても、合意に至らないことがあります。
審判とは、当事者が提出した書類や家庭裁判所調査官が行った調査の結果など、さまざまな資料に基づいて裁判官が適正な解決案を判断し、決定する手続きのことです。遺産分割審判では、最終的に裁判官が遺産分割の内容を判断し、強制的な決定を下します。
調停が話し合いの手続きであるのに対して、審判は裁判官が決定を下す手続きであるという点で、両者は大きく異なります。
調停が不成立となると自動的に審判の手続きに移行するため、相続人が改めて申立てをし直す必要はありません。追加(印紙代)の手数料も原則として不要です。
遺産分割審判では、原則として、相続人が一堂に会して、裁判官が進行するという形式で手続きが進められることになります。審判の具体的な流れについては、次の通りです。
調停から審判の手続きに移行すると、まず第1回審判期日の日時が指定され、家庭裁判所から各相続人へ期日呼出状が送付されます。
相続人は、指定の期日に家庭裁判所に出頭します。
期日に出頭しない相続人がいても、審判の手続きは出頭した相続人と裁判官だけで、以下のように進められていきます。期日を欠席し続けると、自分の言い分が一切考慮されなくなってしまうため、審判で極めて不利になってしまうことに注意が必要です。どうしても期日に出頭することが難しい場合は、弁護士に依頼して、代理人として出頭してもらうこともできます。
一般的な訴訟と同様、それぞれの相続人が、書面で事実や法律上の主張を行い、またそれを裏付けする証拠を提出します。
審判では、調停のように話し合いによって合意を目指す形式ではなく、当事者が提出した書面や証拠に基づき、どちらの言い分が正しいかを裁判官が判断する手続きが行われます。そのため、当事者としては、法的に筋の通った主張と、その主張を裏付ける事実を提示した上で、その事実を証明できる証拠を提出することが極めて重要です。
例えば、寄与分を主張する場合は、自分が被相続人の看護や介護に努めた事実を具体的に説明した上で、病院のカルテや介護施設の記録、介護日誌や医療費・介護費の領収書などを証拠として提出することになるでしょう。
また、家庭裁判所は必要に応じて、遺産の内容や評価額、寄与分や特別受益に関する事情、各相続人の生活状況や意向、不動産の利用状況、その他の関連事実について、家庭裁判所調査官に対して調査を命じることもあります。その調査結果をまとめた報告書は、各相続人へ開示されます。各相続人は、必要に応じて、調査結果報告書を証拠として使用することも可能です。
審判の手続きの中でも、相続人たちは話し合いをすることができます。もし、途中で合意に至れば、調停成立として、裁判所により調停調書が作成され、審判終了です。
有利な条件で調停を成立させるためにも、筋の通った主張と具体的な事実、有力な証拠を提出しておくことが非常に重要です。
各相続人が主張と証拠を出し尽くし、調停も成立しない場合は結審し、最終的には、それぞれの主張・立証に基づいて家庭裁判所が遺産分割の審判を下します。
この審判において、誰がどの遺産を相続するのかなど、遺産分割の内容が具体的に指定されます。
審判の内容は審判書に記載され、家庭裁判所から各相続人へ送付されます。審判書が届いたら、次にご説明する不服申立てをするか検討するためにも、速やかに開封して内容を確認することが大切です。
もし遺産分割の審判の内容について、不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告することができます。即時抗告した場合、高等裁判所の抗告審で、その申立ての理由が判断されます。また高裁での決定にも不服がある場合、特別抗告等の手続きなどもありますが、こちらに関しては理由が限定されるので、一般的には抗告審までで決着がつくといえます。
なお、即時抗告で結果を覆すのは、容易なことではありません。後悔しないためには、遺産分割審判が結審するまでに、主張や事実、有力な証拠を十分に提出しておくことが極めて重要です。
告知日から2週間以内に即時抗告が行われなければ、審判は確定します。
確定した審判のうち、金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行などの給付を命ずるものは、執行力のある債務名義と同一の効力を持ちます(家事事件手続法75条)。そのため、当事者が「審判内容に納得がいかない」などと異議を唱えたとしても、審判で決定された内容は強制的に当事者を拘束します。
具体的には、不動産の名義変更登記は、審判書の正本又は謄本と確定証明書を添付することにより、単独で申請することが可能です。遺産を引き渡さない相続人がいる場合には、強制執行手続きによりその人の預貯金や給与を差し押さえて、強制的に金銭の回収を図ることもできます。
遺産分割調停での合意をあきらめ、審判へ移行することには一長一短があります。まずはメリットからみていきましょう。
他の相続人が歩み寄る姿勢を見せなくても、審判では裁判官が中立・公平な立場で審判を下すため、話し合いが永久に平行線をたどるリスクが解消されます。
審判が下ってもその内容に従おうとしない相続人がいる場合には、差押えの手続きなどを活用することにより、強制的に遺産分割を実現することが可能です。
遺産分割調停での解決を目指す場合は、他の相続人と感情的に対立していたり、理不尽な主張をする相続人がいたりする場合であっても、合意を得るための交渉が必要となります。
しかし、審判では裁判官が法的観点から一定の判断を下してくれるため、無駄な交渉を続ける必要がありません。
裁判所に出頭しない相続人や、交渉を拒否する相続人がいる場合は、調停の手続きを進めることができません。
しかし、審判では、欠席し続ける相続人がいる場合でも、他の相続人が家庭裁判所に提出した書面や証拠をもとに審判が下されます。
遺産分割審判には、以下のデメリットもあるため注意しましょう。
裁判官は民法の規定に従って厳格に、適正な判断を下します。そのため、各当事者の個別事情を考慮した柔軟な解決を図ることは困難です。
もっとも、審判手続きの中でも話し合いにより当事者全員の合意(調停)が成立した場合は、このデメリットを回避することが可能です。
審判は勝ち負けがはっきりとつく手続きであるため、負けた側は勝った側に対して、極めて悪い感情を抱きがちです。相続人間の感情の溝が極度に深まり、親族関係が修復不可能な程度にまで悪化することも少なくありません。
調停では、調停委員会が中立・公平な立場で話し合いを仲介してくれるため、当事者に専門的な知識が不足していても、交渉を進めることは可能です。
しかし、審判では適切な主張書面を作成し、有力な証拠を収集するために、専門的な知識が要求されます。知識の不足が不利な結果に直結しやすいため、弁護士を立てずに自力で適切に対応することは難しいのが実情です。
調停で決着がつかず審判へ移行することが決まった場合、これまでの「話し合いの姿勢」から「裁判所に認められる主張・証拠の提示」へ頭を切り替える必要があります。
「自分が長年、親の面倒を見てきた」「昔から弟ばかり贔屓されていた」といった事実を感情的に主張するだけでは、審判では考慮してもらえません。
「誰が・いつ・どのような支出を行ったか」「不動産の評価額はいくらが正当か」などの具体的な事実について、領収書、口座履歴、不動産鑑定評価書などの客観的な証拠によって証明することが最も重要です。
自分の言い分を裁判官に正しく理解してもらうためには、事実を整理した上で、民法や過去の裁判例に基づく論理的な主張を記載した書面を作成し、提出する必要があります。
論理的飛躍のある主張や、主張を裏付ける事実が整理できていなければ、その言い分は裁判官に受け入れられません。
調停段階でご自身で対応していた場合でも、審判に移行する際には弁護士へ依頼することをおすすめします。法的な主張の組み立てや証拠収集などを適切に進めるためには、専門的な知識とノウハウが不可欠だからです。
調停で解決できないと感じたら、早めに弁護士へ相談してみましょう。
ここまで見てきた通り、遺産分割審判の手続きは、ほとんど通常の裁判と変わらない性質のものです。書類収集などは、特に辛い負担になるでしょう。そのようなことも鎌倉総合法律事務所までご相談いただければ、何かと煩雑な審判の代理人となり幅広く対応します。
何か手違いがあると、後で大きな後悔や不利益が生じるかもしれません。審判手続きは通常裁判とほとんど同じとも言え、どの書類を提出するか、どのような主張をするかで結果が変わることも考えられるので、もし不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。

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